犬身/松浦 理英子

犬身

犬身

 話題になってるのは知っていたので前々から気になっていた一冊。
主人公の房江は「犬化願望」を持っている。犬が「好き」と言うよりも、犬に「なりたい」と思いながら日々過ごしていた。
そして、房江は犬になり、犬生を生きることになる。犬(元人間)の視点から人間を見るのは興味深いと感じた。人間の頃に出来たことが出来なくなるけど、
代わりに話を理解しながらも傍観者の立場にいることが出来るし、種族の違いで普通はありえない交流も普通になる。自分の相手に伝えることが出来ないからこその信頼もある。
 あと、この作品は電子書籍連載だったらしい。IT化だなー

流星ワゴン/重松清

 

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

 中年男性の悲哀を描くことに関しては定評がある。重松清の代表作。不倫、暴力、親子、離婚わかりやすく苦しく悲しいエッセンスが並べられてるのにも関わらず、あんまりくどくないから不思議だ。

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 /湯浅 誠

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

 近年叫ばれるワーキングプア・ホームレス問題を取り扱ってる本。
 この本の中で一番興味深いのが、ワーキングプアに対して、その人の努力が足りないからだ、根性が無いからだ、私は努力して貧乏にはならなかった。結局は貧乏なのは自己責任なんだ。と訴える人は少なからずいる。筆者はそういう自己責任論を掲げる人をこう批判する。
 自己責任論を掲げる人は自分の努力の前にある。前提条件に気付いていない。教育や親戚・友人などの社会的つながりや教養がある人とそうでない人を並べて自己責任を言うのはあまりに暴力的であることを挙げている。作中では社会的つながりや教養を’溜め’と言う概念で説明している。そして、貧困に至る過程には5つの溜めと排除があると言っている。まずは教育課程、企業福祉,家族福祉,公的福祉,それぞれの溜めが無く排除されたものは最終的に「自分は社会から必要とされていない、いらないんだ」と自分自身からの排除に至る経緯があると言う。
 問題は表層だけでは見えてこない。

ひでおと素子の愛の交換日記/吾妻ひでお 新井素子

 ここ数年の失踪日記から続く吾妻ひでおブーム。ミーハー根性で読んでみた。新井と吾妻の文章と漫画が交互に重なるように構成されている。新井素子の文章は初めて読んだけれど、少女漫画みたいで面白い。吾妻の絵もこれまた少女漫画みたいで妙な調和がある。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? /フィリップ・K・ディック

 
 近未来、自然は滅び、生物が貴重になりまがい物の電気で動く代用生物ばかりになっていた。人々は本物の生き物をありがたがり、珍重していた。
賞金稼ぎのリックは本物の生き物を買うために火星から脱走した本物の人間そっくりなアンドロイドを狩ることになる。
 SFの金字塔の一つ、人間とは何だろう?と考えさせられる本。作中では主人公がアンドロイドを処分していく、しかしアンドロイドは外見は人間そっくりで見分けがつかない。性能は人間以上のものもいる。だけど、生き物じゃない。偽物だ。だけど、何が本物なんだろう。

赤塚不二夫120%―死んでる場合じゃないのだ /赤塚不二夫

赤塚不二夫120%―死んでる場合じゃないのだ

赤塚不二夫120%―死んでる場合じゃないのだ

 今だに記憶に新しい赤塚不二夫の本。まともに読んだことある作品は「天才バカボン」ぐらいだったけど、この人は凄い漫画家だなと感じた。
文章は少しふざけ口調だけど、内容は真剣だ。ギャグに生涯をささげた姿勢はやっぱり本物だと思った。
 トキワ荘の話、あのタモリとの出会いの話、結婚の話、そして笑いの話。お笑いだらけの世の中で、もう一度何が面白いかを判断するために読んでもらいたい本。

友情・愛と死/武者小路実篤

友情・愛と死 (角川文庫)

友情・愛と死 (角川文庫)

 男と女と男、この構図はきっと古代からの普遍のものなんだろう。友情をとるか恋愛をとるか、
テーマは現代的でありながらも、深さが現代ではありえない。こころと一緒に読んでもらいたい名作。